----- 声が独特で個性的な、とても素敵な声なんですけれども、ご自身がそれにお気づきになったのはいつ頃ですか?
歌うということに関しては、まず高校生の頃に<歌ってみたいな>という衝動がすごくありまして、自宅で家族がいないときに大きな声で歌ったりしてました。その衝動がずーっと続いていて、大学生になってサークルに入った時に、ギターを弾きながら歌うっていうことを始めたんです。人前で歌う機会が増えると、私自身はライブを録った音源を聴いて、どうやったら自分が納得出来る演奏に出来るかなって思うくらいで、自分の声質について特に気づいたことはなかったんですけど、皆がいろんな感想言ってくれて、そして皆の「いいね」って言ってくれるそのたくさんの声に助けられてここまでやってこられたんです。
----- ヴォーカル・スタイルについては、誰かお手本にしたアーティストはいますか?
んー・・・誰かな? 自分が考えている、こういう風に歌いたいっていう課題はその時々にあって、その都度(お手本とするアーティストに)出会ってはいるんですけど・・・。んー、たくさん好きな人はいますが、やっぱり一番はノラ・ジョーンズですね。それまでにジョニ・ミッチェルを聴いて、でもどうやってあの声を出せてるのか解明出来ないまま何年も過ぎたりとか、ボニー・レイットも大好きでよく聴きましたけど、どうやってああいう声が出せているのかわからなかったですね。あとエレン・マッキルウェインというソウルフルな歌い方をする女性シンガーがいるんですけど、ぜんぜんそんな風には歌えなくて、だから自分の歌と好きで聴いているアーティストの歌とのギャップを感じていました。で、同時にトラディショナルなフォーク系のアーティストも聴いていて、ナチュラルに、しゃべっているように歌う、というのを学んだのはドク・ワトソン(※注)からですね。あと、エリザベス・コットン(※注)っていう人がいて・・・、
----- あ、(ギターを)さかさまに弾く人。
そう!なんか衝撃じゃないですか、ベース音をこっち(人差し指の方)で弾いて、こっち(親指の方)で高いとこ弾くからもう解明出来ないですよね。まったく譜面に起こせない世界観(笑)。エリザベス・コットンの歌って、最初聴くとプッと吹き出してしまう感じなんですけど、よーく聴いていると声の正直さというか、声質に嘘偽りがないんですね。ただ自分が出せる声を出しているっていうその素の感じに感銘を受けて、これは私にも出来ることなんじゃないかな、と思いました。ノラ・ジョーンズに関しては、すごくナチュラルに歌いながらも、かなり技巧的なことを簡単にやる方なので、常に目標にしていますね。
----- 歌を歌うことで聴衆に向かって表現する際、自分の声を脚色して表に出すことになりますが、それを出来るだけ“素”に戻して歌うというのは非常に難しいですね。
そうなんですよね。素で歌いつつも、リズムに乗っていなければならない、すべてが音楽的でなければならないので複雑なんですが、素でなければならないという大事なことを教えてくれるのがそのフォーク系の人たちですね。あとすごく大好きな、一番すべてにおいて影響を受けているのがロン・セクスミス。彼のビブラートがかかったすごくソフトな歌声が大好きで、それもまねようとしているんですがなかなか上手くいかないとか、あとポール・マッカートニーの歌もすごい好きで、あのスイングする感じとか、いつも、やりたいなと思っていることなんですけどね。その辺の要素がミックスされて自分の理想ってものが出来ているのだと思います。
※注:Doc Watson / ドク・ワトソン
クラレンス・ホワイト、トニー・ライス、ノーマン・ブレイク、ダン・クレアリーら多くのブルーグラス・ギタリストたちに影響を与えた、フォークシンガーでありブルーグラス・ギターの第一人者。息子のマール・ワトソンと共に活動を続けていたが、1985年にマールが事故で急逝。しかし、その悲劇を乗り越えて、数多くのセッションやライブ活動を精力的に展開した。2012年5月29日、89歳で逝去
※注:Elizabeth Cotten / エリザベス・コットン
ピーター,ポール&マリーやジェリー・ガルシア、ボブ・ディラン、ジョーン・バエズ、タジ・マハールなど多くのアーティストがカバーしている「Freight Train」の作者として知られている、ブルース、フォークのギタリストであり、シンガーソングライター。
〔まだまだつづきます!〕
※中村まりさんが出演する霞町音楽会 第4回についてはこちら。チケットも発売中!
第3回 「----- ちなみに・・・、今何を聴いてます?」 こちらから
第5回「----- ところで、今後の音楽活動の構想の中に<日本語で歌う>というのはありますか?」こちらから第4回「 でもキミ、インディゴ・ガールズは、こういうギターを弾いていると思うよ。教えてくれた楽器屋のおじさんに私の作品を聴いてほしい」 こちらから |
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